第4回:回転系を理解する-F=maからT=Jαへ、直線運動とのアナロジー
前回は、まったく違う物理現象でも、役割を一つずつ対応させていくと同じ形の数式で表せることを紹介しました。
このように、すでに知っている現象を使って別の現象を理解する考え方が「アナロジー」です。
では実際に、この考え方を使ってみましょう。
今回扱うのは、回転運動です。
モータ、タイヤ、歯車、ファン、ドア。
身の回りには回転するものがいくらでもありますが、いざ物理の教科書を開くと、
- トルク
- 慣性モーメント(イナーシャとも呼びます)
- 角速度
- 角加速度
と、急に知らない言葉が大量に出てきます。
ですが、実はそれほど身構える必要はありません。
第2回までに見てきた直線運動を理解していれば、回転運動はほとんどそのまま置き換えて考えることができます。
今回は、
直線運動の F = ma が、なぜ回転運動では T = Jα になるのか
を、身近な感覚から順番に見ていきます。
まっすぐ進むか、くるくる回るか
まずは一番単純なところから始めます。
直線上を動く台車を想像してください。
台車がどこにいるのかは、位置 (x) で表せます。
その位置が時間とともに変われば速度になり、
さらに速度が変化すれば加速度になります。
これは第1回で見てきた関係です。
では、回転する円盤ならどうでしょうか。
回転する物体では、「何m進んだか」ではなく「どれだけ回ったか」を使います。
その量が角度 (θ) です。
角度の変化する速さが角速度 (ω)、
角速度の変化する速さが角加速度 (α) です。
つまり、
| 直線運動 | 回転運動 |
|---|---|
| 位置 x | 角度 θ |
| 速度 v | 角速度 ω |
| 加速度 a | 角加速度 α |

となります。
やっていることはまったく同じです。
どこにいるか → どれくらいの速さで動くか → その速さがどれくらい変わるか。
まっすぐ進む代わりに、円を描いて回っているだけです。
ちなみに角度 (θ) は、工学では度数法ではなくラジアンを使うことが多く、1周が (2π) radです。
「力」の回転版がトルク
次に、物体を動かす側を考えます。
直線運動では、物体を押す量として「力 (F)」を使いました。
回転運動では、その代わりに「トルク (T)」を使います。
とはいえ、トルクという別の謎の力が突然現れるわけではありません。
トルクは、普通の力がどれくらい回転に効くかを表した量です。
身近なドアで考えてみましょう。
ドアを開けるとき、普通は蝶番から一番遠いドアノブ付近を押します。
では、蝶番のすぐ近くを同じ力で押したらどうでしょうか。
かなり開けにくくなります。
加えている力そのものは同じなのに、回転させる効果が違うわけです。
この違いを表すのがトルクです。
回転中心からの距離を (r)、加える力を (F)、力を加える方向と腕のなす角度を (φ) とすると、
となります。
ドアを表面に対して垂直に押すような、もっとも効率よく回転させられる場合には、
となります。
例えば、蝶番から0.5 m離れた場所を10 Nで押せば、
です。
ところが、蝶番から0.1 mの場所なら、
しかありません。
同じ5 Nmのトルクを出そうとすれば、50 Nもの力が必要になります。
レンチを使うときに、短いレンチより長いレンチの方がボルトを回しやすいのも同じ理由です。
つまり、
力 (F) が「まっすぐ動かす効き目」なら、トルク (T) は「回転させる効き目」
だと考えればよいわけです。
「質量」の回転版が慣性モーメント
ここで第1回の式、
を思い出しましょう。
同じ力を加えても、軽いものは大きく加速し、重いものはなかなか加速しません。
この「動かしにくさ」を表しているのが質量 (m) でした。
では回転運動では何が「回しにくさ」を決めるのでしょうか。
そこで登場するのが、慣性モーメント (J) です。
名前はいかついですが、意味はかなり単純です。
慣性モーメントとは、回転するときの動かしにくさです。
ただし、質量と一つ大きく違うところがあります。
回転では、単に重いか軽いかだけでなく、その重さが回転中心からどれだけ離れているかも重要になります。
これがなぜなのか、F=maから考えてみましょう。
F=maからT=Jαを作ってみる
回転中心から距離 (r) の位置に、小さな質量 (m) があるとします。
この物体が回転していて、角加速度が (α) だったとしましょう。
角加速度 (α) で回転すると、円周方向の加速度 (a) は、
となります。
すると、F=maから必要な力は、
です。
この力が回転中心から距離 (r) の場所に加わっているので、トルクは、
したがって、
となります。
ここで、
と置いてみます。
すると、
になりました。
回転運動の基本式が出てきました。
直線運動の
に対して、
です。
F=maとのアナロジーが見えてきたのではないでしょうか。
なぜ外側に重さがあると回しにくいのか
先ほど、
となりました。
ここで注目したいのが (r2) です。
質量 (m) が2倍になれば、慣性モーメントも2倍になります。
ところが回転中心からの距離 (r) が2倍になると、慣性モーメントは4倍になります。
例えば1 kgの物体が回転中心から0.1 mの位置にあるなら、
です。
同じ1 kgでも、0.2 mの位置へ移動すると、
となり、4倍になります。
つまり、同じ重さの物体でも、重さが外側に集まっているほど回転速度を変えにくくなります。

棒の両端に重りを付けたものを手で回そうとしたとき、重りが手元にある場合より、外側にある場合の方が振り回しにくい。
あの感覚が慣性モーメントです。
実際の円盤やモータのロータでは、質量が一点に集中しているわけではありません。
そのため実際の慣性モーメントは、物体を細かく分け、それぞれについて (mr2) を足し合わせて求めます。
その結果、同じ質量でも形状によって慣性モーメントは変わります。
重要なのは細かな公式を暗記することではありません。
質量が大きいほど回しにくい。そして同じ質量なら、外側にあるほどさらに回しにくい。
まずはこの感覚を持っておけば十分です。
エネルギーから見ても同じ対応になる
ここまで、
- 力 (F) ↔ トルク (T)
- 質量 (m) ↔ 慣性モーメント (J)
- 加速度 (a) ↔ 角加速度 (α)
という対応を見てきました。
もう一つ、仕事つまりエネルギーの観点から確認してみましょう。
直線運動では、一定の力 (F) で距離 (x) だけ動かしたときの仕事は、
です。
先ほどのドアのように、回転中心から距離 (r) の場所を押すとします。
角度 (θ) だけ回転すると、その場所が実際に移動する距離は円弧なので、
です。
したがって、
に代入すると、
ここで (Fr=T) なので、
となります。
つまり、
と
も、まったく同じ形をしています。
ここでも、
という対応が出てきました。
実際に物体が動く距離と、そこへ加わる力を追いかけていくと、自然にこの対応関係へたどり着くのです。
バネマスダンパ系を、回してみる
第2回では、直線運動の基本モデルとしてバネマスダンパ系を扱いました。
運動方程式は、
でした。
それぞれ、
- (m):質量による慣性
- (c):速度に比例して動きを邪魔するダンパ
- (k):変位に比例して元へ戻そうとするバネ
を表しています。
では、これを回転運動へ置き換えてみましょう。
ここまで見てきた対応から、
となります。
さらに、直線方向のダンパ係数 (c) に対応する回転方向の粘性係数を (D)、バネ定数 (k) に対応するねじりバネ定数を (K) とすると、
となります。
第2回の式と並べてみます。
直線運動:
回転運動:
記号が違うだけです。
構造はまったく変わっていません。

回転する「バネ」と「ダンパ」とは何なのか
質量 (m) が慣性モーメント (J) に変わるところまでは分かりやすいかもしれません。
少しイメージしにくいのが、
- ねじりバネ (K)
- 回転方向のダンパ (D)
です。
ですが、これも直線運動と同じように考えられます。
回転するバネ
普通のバネは、伸ばせば伸ばすほど強い力で元に戻ろうとします。
でした。
回転の場合は、ねじればねじるほど強いトルクで元へ戻ろうとするものを考えます。
例えば金属の軸も、完全に硬いわけではありません。
片側を固定して反対側をねじれば、ごくわずかですが変形します。
そして手を離せば元の角度へ戻ろうとします。
つまり軸そのものを「ねじりバネ」として見ることができます。
回転するダンパ
直線運動では、
のように、速度が大きいほど強く動きを邪魔するものをダンパとして扱いました。
回転運動でも同じです。
角速度 (ω) が大きいほど抵抗トルクが大きくなるものを、
とモデル化できます。
例えば、粘性のある油の中で軸を回した場合や、ベアリング内部の抵抗などを簡単なモデルとして表すときに使えます。
もちろん現実の摩擦がすべて角速度にきれいに比例するわけではありません。
このあたりは第2回で見た直線運動と同じで、あくまで現実を扱いやすい形へ近似したモデルです。
共振も、そのまま回転する
ここまで来ると、第2回で扱った現象もそのまま回転系へ持ってくることができます。
例えば、ダンパがなく、外からトルクも加えない場合、
となります。
これは直線運動の、
とまったく同じ形です。
直線のバネマス系には、自然に揺れやすい固有振動数がありました。
回転系にも同じように、
という固有振動数があります。
つまり、回転系でも周期的にトルクを加え、その周期がこの固有振動数に近づけば、振れ幅が大きくなる共振が起こります。
第2回で、おもりをタイミングよく「ちょん、ちょん」と押すと揺れが大きくなっていった現象の回転版です。
モータと負荷をつなぐ軸、ギヤ、ドライブシャフトなどでも、こうしたねじれ振動は実際に問題になります。
そしてダンパ (D) が大きくなれば振動が抑えられる。
これも第2回と同じです。
ここまで来ると、「回転系だから別の物理を勉強している」という感じはだいぶ薄くなってきたのではないでしょうか。
直動と回転の対応をまとめる
最後に、ここまでの対応を整理しておきます。
| 分類 | 直動システム | 回転システム |
|---|---|---|
| 状態量 | 変位 x | 角度 θ |
| 変化率 | 速度 v | 角速度 ω |
| さらにその変化率 | 加速度 a | 角加速度 α |
| 外から加える量 | 力 F | トルク T |
| 慣性要素 | 質量 m | 慣性モーメント J |
| 散逸要素 | 粘性 c | 回転粘性 D |
| 蓄積要素 | バネ定数 k | ねじりバネ定数 K |
そして運動方程式は、
に対して、
です。
一つずつ対応させると、驚くほどそのままです。
まとめ:回転運動は、新しい世界ではない
今回は、直線運動を回転運動へ置き換えて考えてみました。
重要なのは、それぞれの公式を別々に暗記することではありません。
- 位置 (x) が角度 (θ) になる
- 速度 (v) が角速度 (ω) になる
- 加速度 (a) が角加速度 (α) になる
- 力 (F) がトルク (T) になる
- 質量 (m) が慣性モーメント (J) になる
そう考えれば、
は、
になり、
バネマスダンパ系も、
から、
へ、そのまま翻訳できます。
これが前回紹介した「アナロジー」を実際に使うということです。
知らない式に出会うたびに、一から覚え直す必要はありません。
「これは、自分がすでに知っている何と同じ構造だろう?」
そう考えるだけで、初めて見る物理もずっと理解しやすくなります。
そして、この考え方がさらに威力を発揮するのが、次回扱う電気回路です。
目で見える質量もバネもない電気の世界に、今回までに理解してきた「慣性・散逸・蓄積」という考え方が、そのまま現れます。
次回は、オームの法則 (V=RI) からスタートして、コイルとコンデンサまで含めた電気回路を、これまでの力学とつないでいきます。