前回は、直線運動の F=ma を回転運動へ置き換え、T=Jα という式が同じ考え方から生まれることを見てきました。

力がトルクに、質量が慣性モーメントに、速度が角速度に変わっても、式の骨格はほとんど同じでした。

ただ、直線運動と回転運動が似ているのは、まだ納得しやすかったかもしれません。
どちらも「物体が動く」という現象だからです。

では、第3回で少しだけ紹介した電気回路はどうでしょうか。

電気は目に見えません。それなのに、抵抗・コイル・コンデンサを含む電気回路は、これまで扱ってきたバネマスダンパ系とほとんど同じ形の式で表せます。

今回は、オームの法則

V=RiV=Ri

から考えていきます。

そこへコイルとコンデンサを一つずつ加えていくことで、なぜ電気回路と力学が同じ形になるのかを確かめていきましょう。

まずはオームの法則を「流れにくさ」として見る

電気回路の基本として、まず登場するのがオームの法則です。

V=RiV=Ri

ここで、

V:電圧
i:電流
R:抵抗

です。学校では「電圧=抵抗×電流」と覚えた方も多いと思います。

ただ、この式を単なる計算式として覚えるよりも、それぞれが何をしているのかを考えた方が、この後の話がずっと分かりやすくなります。

電流 i は、その名のとおり電気の「流れ」です。

電圧 V は、その電流を流そうとする差だと考えることができます。
水道にたとえるなら、水を流すための圧力差に近いイメージです。

そして抵抗 R は、その流れを邪魔するものです。

細い水道管では水が流れにくいように、抵抗が大きい回路では電流が流れにくくなります。

同じ電流を流したければ、抵抗が大きいほど大きな電圧が必要になります。

ここで、第2回で登場したダンパを思い出してみてください。

ダンパによる抵抗力は、

F=cvF=cv

と表しました。

速度 v が大きいほど大きな抵抗力が発生し、粘性係数 c が大きければ、同じ速度で動かすためにより大きな力が必要になります。

並べてみると、

F=cvF=cv

V=RiV=Ri


です。力 F を電圧 V に、速度 v を電流 i に、粘性係数 c を抵抗 R に置き換えれば、まったく同じ形になります。

似ているのは式だけではありません。

ダンパは物体の運動エネルギーを熱へ変えて外へ逃がします。

電気抵抗も、流れてきた電気エネルギーをジュール熱へ変えて外へ逃がします。

どちらも、流れを邪魔しながらエネルギーを失わせる要素なのです。

第3回で紹介した「散逸要素」という言葉を、ここで共通してを当てはめることができるわけです。

抵抗だけでは表せない電気回路

抵抗しかない回路なら、話はかなり単純です。

電圧を決めれば、

i=VRi=\frac{V}{R}


から電流が決まります。

ところが、実際の電気回路には、抵抗以外にもさまざまな部品があります。

モータ制御を考えるうえで特に重要なのが、コイルとコンデンサです。

この2つを加えると、回路は少し面白い動きを始めます。

電圧を加えた瞬間に電流が決まるとは限らなくなり、過去にどれだけ電流が流れていたか、あるいはどれだけ電荷がたまっているかによって、その後の動きが変わるようになります。

なんだか、これまで扱ってきた力学に似てきました。

質量には「急に速度を変えたくない」という性質があり、バネには「どれだけ変形しているか」によって力が変わる性質がありました。

電気回路にも、それとよく似た役割を持つ要素があります。

コイルは「電流の変化」を嫌う

まずはコイルです。

コイルに電流を流すと、その周囲には磁界ができます。

そして、この電流を変化させようとすると、磁界も変化します。すると今度は、その変化を打ち消そうとする向きに電圧が発生します。

つまりコイルには、流れている電流を急に変えにくくする性質があります。

モータや電気にスイッチを入れた瞬間に電流がいきなり最大になるのではなく、少しずつ増えていくのもこのためです。

この性質の強さを表す量が、インダクタンス L です。

コイルに必要な電圧は、

VL=LdidtV_L=L\frac{di}{dt}


と表されます。ここで注目してほしいのは、

didt\frac{di}{dt}



です。これは「電流の変化する速さ」です。

電流を急激に変化させようとするほど大きな電圧が必要になります。

では、これを力学と比べてみましょう。

質量 m の物体の速度を変えるには、

F=mdvdtF=m\frac{dv}{dt}


という力が必要でした。

質量が大きいほど、速度を急激に変えるには大きな力が必要になります。

一方コイルでは、

VL=LdidtV_L=L\frac{di}{dt}


です。インダクタンスが大きいほど、電流を急激に変えるには大きな電圧が必要になります。

つまり、

m↔Lm\leftrightarrow L

v↔iv\leftrightarrow i

F↔VF\leftrightarrow V


という対応が見えてきます。

質量が速度の変化を嫌うように、コイルは電流の変化を嫌う。

これが、質量とインダクタンスが対応する理由です。

コンデンサは「流れた電気」をため込む

次はコンデンサです。

コンデンサは、向かい合った2枚の電極に電荷をためる部品です。

電荷をためればためるほど、2枚の電極の間には大きな電圧が生まれます。

コンデンサにたまった電荷を q、静電容量を C とすると、

VC=qCV_C=\frac{q}{C}


と表されます。

ここで一つ、新しい量 q が出てきました。

しかし、実はそれほど難しいものではありません。

電流とは、「単位時間あたりにどれだけ電荷が流れたか」を表す量です。

したがって、

i=dqdti=\frac{dq}{dt}


です。逆に考えれば、これまでに流れてきた電流を時間方向に積み重ねると、たまった電荷になります。

初めに電荷がたまっていないとすれば、

q=∫idtq=\int i\,dt


です。これを先ほどのコンデンサの式へ入れると、

VC=1C∫idtV_C=\frac{1}{C}\int i\,dt


となります。さて、この形、どこかで見たことがないでしょうか。

コンデンサは、電気の「バネ」

第2回で扱ったバネでは、

F=kxF=kx


という関係がありました。

変位 x が大きくなるほど、元へ戻そうとする力も大きくなります。

そして変位とは、速度を時間方向に積み重ねたものです。

初めの変位を0とすれば、

x=∫vdtx=\int v\,dt


です。したがって、バネの力は、

F=k∫vdtF=k\int v\,dt


と書くこともできます。

一方、コンデンサでは、

VC=1C∫idtV_C=\frac{1}{C}\int i\,dt


でした。二つを並べてみます。

F=k∫vdtF=k\int v\,dt

VC=1C∫idtV_C=\frac{1}{C}\int i\,dt

今度も、ほとんど同じ形です。

バネでは、これまでどれだけ速度が積み重なって変位したかによって力が決まります。

コンデンサでは、これまでどれだけ電流が積み重なって電荷がたまったかによって電圧が決まります。

つまり、

x↔qx\leftrightarrow q

k↔1Ck\leftrightarrow \frac{1}{C}


という対応になります。

なぜコンデンサだけ「1/C」なのか

ここは、第3回の対応表を見たときに最も違和感があった部分かもしれません。

なぜバネ定数 k に対応するのが、静電容量 C そのものではなく、

1C\frac{1}{C}


なのでしょうか。

これも、それぞれの意味を考えると分かります。

バネ定数 k が大きいバネは硬いバネです。

少し変形させるだけでも、大きな力が返ってきます。

バネ乗数 k が小さければその逆です。

つまり、

  • 大きな k → 少ない変位でも大きな力をためている
  • 小さな k → 大きな変位でもためている力は小さい

となります。

一方、静電容量 C が大きなコンデンサは、たくさんの電荷をためられます。

同じ量の電荷 q をためても、C が大きければ発生する電圧は小さくなります。

逆に静電容量 C が小さければ大きな電荷 q をためるのに、大きな電圧が必要になります。

つまり、

  • 大きな C → 多くの電荷をためても電圧が上がりにくい
  • 小さな C → 多くの電荷をためていれば電圧が大きい

という性質があります。

バネはたわみやすさを基準に考えることが多く、
静電容量はためやすさを基準に考えることが多いというだけで、
どちらもエネルギーをためるという機能としてみればアナロジーで対応できるわけです。

しかし基準が違うため逆数になっているのです。

だから式の中では、

k↔1Ck\leftrightarrow \frac{1}{C}


という対応になります。

R・L・Cを全部つなげてみる

ここまでで、3つの要素がそろいました。

抵抗 R、コイルのインダクタンス L、コンデンサの静電容量 C です。

これらを直列につないだ回路を考えてみます。

直列回路では、すべての要素に同じ電流 i が流れます。

そして、電源が与えた電圧 V は、抵抗・コイル・コンデンサそれぞれにかかる電圧の合計になります。

したがって、

V=VR+VL+VCV=V_R+V_L+V_C


です。これまで求めた式を代入すると、

V=Ri+Ldidt+1C∫idtV=Ri+L\frac{di}{dt}+\frac{1}{C}\int i\,dt


となります。並び順を少し変えると、

Ldidt+Ri+1C∫idt=VL\frac{di}{dt}+Ri+\frac{1}{C}\int i\,dt=V


です。これが、直列RLC回路の電圧方程式です。

ここまで一つずつ見てきた今なら、それぞれの項の意味が見えると思います。

コイルは電流の変化に反応する。

抵抗はその瞬間の電流に反応する。

コンデンサは、それまでに流れた電流の積み重ねに反応する。

この3つを足したものが、回路全体に必要な電圧です。

バネマスダンパ系と並べると、同じ式になる

では、第2回で作ったバネマスダンパ系へ戻ります。

運動方程式は、

md2xdt2+cdxdt+kx=Fm\frac{d^2x}{dt^2}+c\frac{dx}{dt}+kx=F


でした。ここで速度を

v=dxdtv=\frac{dx}{dt}


と置いてみます。すると、

dvdt=d2xdt2\frac{dv}{dt}=\frac{d^2x}{dt^2}


です。また、初めの変位を0とすれば、

x=∫vdtx=\int v\,dt


です。したがって、バネマスダンパ系の式は、

mdvdt+cv+k∫vdt=Fm\frac{dv}{dt}+cv+k\int v\,dt=F


と書き直せます。

そして先ほどのRLC回路は、

Ldidt+Ri+1C∫idt=VL\frac{di}{dt}+Ri+\frac{1}{C}\int i\,dt=V


でした。

ここまで来ると、第3回で示した対応表がそのまま式から現れます。

役割直線運動電気回路
外から動かすもの力 F電圧 V
流れに相当する量速度 v電流 i
流れを変えにくくする要素質量 mインダクタンス L
流れを妨げる要素粘性係数 c抵抗 R
蓄積によって押し返す要素バネ定数 k1/C
積み重なった量変位 x電荷 q

記号も単位も、実際に起きている物理現象も違います。

それでも、式の中でそれぞれが担っている役割は同じです。

エネルギーから見ても、対応は同じ

この対応は、式の形を無理やり似せただけではありません。

エネルギーの蓄え方を見ても、同じ関係が現れます。

運動している質量が持つエネルギーは、

E=12mv2E=\frac{1}{2}mv^2


です。

コイルが磁界として蓄えるエネルギーは、

E=12Li2E=\frac{1}{2}Li^2


です。m と L、v と i が同じ位置に現れています。

同じように、バネに蓄えられるエネルギーは、

E=12kx2E=\frac{1}{2}kx^2


です。

コンデンサに蓄えられるエネルギーを電荷 q で表すと、

E=12Cq2E=\frac{1}{2C}q^2



となります。ここでも、

k↔1Ck\leftrightarrow \frac{1}{C}

x↔qx\leftrightarrow q


という対応がそのまま現れます。

そしてダンパと抵抗は、エネルギーを蓄えるのではなく熱として外へ逃がします。

直線運動と電気回路という、まったく違って見える二つの世界に、同じ3種類の役割が存在しているわけです。

ここまでで、3つの世界がつながった

第2回では、直線運動を「質量・バネ・ダンパ」という3つの要素に分けました。

第4回では、それを回転運動へ翻訳し、質量が慣性モーメントへ、力がトルクへ置き換わっても同じ構造になることを見ました。

そして今回、電気回路でも、

質量に相当するインダクタンス。

ダンパに相当する抵抗。

バネに相当するコンデンサ。

という対応が現れました。

これで、第3回で紹介した直線運動・回転運動・電気回路という3つの世界が、一つにつながりました。

この考え方は、後にモータをモデル化するときにそのまま使います。

モータでは、電圧を加えると電流が流れ、その電流からトルクが生まれ、軸が回転します。

つまり、今回扱った「電気の世界」と、前回扱った「回転の世界」が、一つの機械の中で本当に接続されます。

そこまで進むと、ここまで別々に学んできた式が、一本のモデルとしてつながることになります。

まとめ

今回は、オームの法則 V=Ri から出発し、コイルとコンデンサを加えたRLC回路まで広げてきました。

  • 抵抗は電流に比例した電圧を必要とし、力学ではダンパに対応する
  • コイルは電流の変化を妨げ、質量が速度の変化を妨げる性質と対応する
  • コンデンサは流れてきた電荷を蓄え、その蓄積量によって電圧が決まる
  • バネ定数 k に対応するのは C ではなく 1/C
  • RLC回路を電流 i で表すと、バネマスダンパ系を速度 v で表した式と同じ構造になる
  • この対応は数式だけでなく、エネルギーの蓄積・散逸という意味から見ても一致する

ここまで見てくると、アナロジーはかなり強力な道具に見えます。

直線運動で理解したことを回転運動へ持っていき、さらに電気回路へ持っていくことができました。

では、この方法を使えば、世の中のあらゆる物理現象を同じように扱えるのでしょうか。

残念ながら、そこまで世界は親切にはできていません。

次回は、このアナロジーがどこまで通用し、どこから崩れていくのかを見ていきます。

ABOUT ME
しょか
組み込みシステムの制御設計者として働いています。 技術に関することや思いつきを書いていこうと思っています。