第3回:アナロジーとは何か?機械・電気・回転をつなぐ考え方
第2回では、現実の動きを「質量・バネ・ダンパ」という3つの要素に分け、バネマスダンパ系の運動方程式を組み立てました。
実はこの考え方は様々な領域に応用できます。例えば、モータのように回転する物体も、抵抗やコイルを含む電気回路も、前回のバネマスダンパ系とよく似た形の式で表すことができるのです。
このように、ある分野で理解した構造を、別の分野に対応づけて考える方法を「アナロジー」と呼びます。
今回は細かな式の導出には踏み込みません。まずは、なぜ異なる現象を同じように考えられるのか、そして、その見方がモータ制御でなぜ役に立つのかをつかんでいきましょう。
アナロジーは「なんとなく似ている」という話ではない
アナロジーは、日本語では「類推」と訳されます。
身近な例なら、初めて見る道具を「これは大きなハサミのようなものだ」と捉えたり、コンピュータのデータ置き場を「フォルダ」と呼んだりするのも、広い意味ではアナロジーです。すでに知っているものとの共通点を使って、知らないものを理解しています。
ただし、工学で使うアナロジーは、見た目や印象が似ているというだけではありません。
重要なのは、現象を支配する式の構造が1対1で対応していることです。
たとえば、前回扱ったバネマスダンパ系は、次の式で表されました。
この式を、いったん記号の意味から離れて読んでみます。
- 慣性要素m:今の動きを急には変えさせない要素
- 散逸要素c:動いているときに、その動きを妨げる要素
- 弾性要素k:基準からずれたときに、元へ戻そうとする要素
この3つの影響を足し合わせたものが、外から加えた力と釣り合っている式だと見ることができます。
つまり大切なのは、記号が m や c や k であることではありません。「変化を妨げる」「動きを減衰させる」「元へ戻そうとする」という役割の組み合わせです。
別の物理現象の中に、これと同じ役割を担う要素が見つかれば、その現象も同じ骨格の式で表せる可能性があります。
これが、工学で使うアナロジーの中身です。
まっすぐ動く世界を、回転する世界へ置き換える
まずは、まっすぐ動く物体と、回転する物体を比べてみます。
物体をまっすぐ押すときに必要なのは「力」です。一方、軸を回すときに必要なのは「トルク」です。どちらも、物体の動きを変えるために外から与えるものです。
また、重い物体ほど速度を変えにくいように、回しにくい物体ほど角速度を変えにくくなります。直線運動における質量 m と同じ役割を、回転運動では慣性モーメント J が担います。
同じように、直線運動の速度に対応するものは角速度、変位に対応するものは角度です。回転を妨げる粘性や、ねじると元へ戻るバネも考えられます。
対応する役割を並べると、次のようになります。
| 役割 | 直線運動 | 回転運動 |
|---|---|---|
| 外から加える量 | 力 F | トルク T |
| 流れの速さ | 速度 v | 角速度 ω |
| 動いた量 | 変位 x | 角度 θ |
| 慣性要素 | 質量 m | 慣性モーメント J |
| 散逸要素 | 粘性係数 c | 回転系の粘性係数 D |
| 蓄積要素 | バネ定数 k | ねじりバネ定数 K |
ここでは、現在の速度や電流を保とうとする要素を「慣性要素」、エネルギーを熱として失う要素を「散逸要素」、変位や電荷を蓄えて元へ押し返す要素を「蓄積要素」と呼びます。
記号と単位は異なりますが、それぞれが式の中で担う役割は対応しています。
そのため、直線運動の式で F を T に、m を J に、速度を角速度に置き換えると、回転運動の式へ翻訳できます。
回転系の粘性係数やねじりバネ定数も、「動きを妨げる」「元へ戻そうとする」という役割は直線運動と同じです。ここでは、回転運動にも同じ役割の要素がある、と捉えておけば十分です。
電気回路にも、似た役割の要素がある
さらに意外なのが、電気回路との対応です。
電気回路では、電圧を加えると電流が流れます。最もよく知られている関係は、オームの法則です。
抵抗 R が大きいほど、同じ電流 i を流すために大きな電圧 V が必要です。
これは、粘性抵抗が大きいほど、同じ速度で物体を動かし続けるために大きな力が必要になることと似ています。
二つの式を並べると、V と F、R と c、i と v が、それぞれ同じ位置に現れています。
もちろん、電圧が力そのものであったり、電流が物体の速度そのものであったりするわけではありません。単位も物理的な意味も異なります。
それでも、何かを流そうとする入力があり、その流れを抵抗する要素があるという関係は共通しています。
そして電気回路には、抵抗だけでなく、電流の変化を妨げるコイルや、電荷を蓄えるコンデンサがあります。
これらを含む回路の式は、まだ詳しく知らなくても構いません。ここでは、次の対応だけ眺めてみてください。
| 役割 | 直線運動 | 回転運動 | 電気回路 |
|---|---|---|---|
| 外から加える量 | 力 F | トルク T | 電圧 V |
| 流れの速さ | 速度 v | 角速度 ω | 電流 i |
| 動いた量 | 変位 x | 角度 θ | 電荷 q |
| 慣性要素 | 質量 m | 慣性モーメント J | インダクタンス L |
| 散逸要素 | 粘性係数 c | 回転系の粘性係数 D | 抵抗 R |
| 蓄積要素 | バネ定数 k | ねじりバネ定数 K | 静電容量の逆数 1/C |
電気回路でも、インダクタンス、抵抗、静電容量の逆数が、それぞれ慣性要素、散逸要素、蓄積要素に対応します。
第4回で直線運動と回転運動を結び、第5回でオームの法則からコイルとコンデンサを含む回路へ広げると、この表が単なる暗記表ではなく、式から自然に導かれる対応だと分かります。コンデンサがなぜ C ではなく 1/C に対応するのかについても、第5回で解説します。
なぜ違う現象が同じ形になるのか
では、なぜ、物体の運動と電気回路という異なる現象に共通の骨格が現れるのでしょうか。
理由は、それぞれの世界に、似た役割を持つ要素が存在するからです。
物理システムの中では、外から与えられたエネルギーが、そのまま消えてしまうわけではなく、以下のような形で蓄えられたり何か別の要素に変換されます。
質量や慣性モーメントには、運動エネルギーとして蓄えられるイルには磁気エネルギーとして、バネやコンデンサには変形や電荷の偏りとして蓄えられる摩擦や電気抵抗によって熱へ変わり、外へ逃げる
どの要素にどれだけエネルギーが渡ったのか。その収支を表すと、異なる現象でも似た形の式が現れます。
ただし、「エネルギーの扱いが似ているから、いつでも同じ式になる」と考えるのは正確ではありません。
アナロジーが成り立つには、対応させた量どうしが、同じ種類の関係式で結ばれている必要があります。さらに、ここで扱うような単純な対応は、各要素を比例関係で表せる範囲で特に紐づきが強固です。
したがって、アナロジーは「すべての物理現象は同じだ」という主張ではありません。異なる現象の中から、共通する数学的な構造を抜き出して利用する考え方です。
式の形が同じなら、片方で得た知識をもう片方でも使えます。しかし、物理的な意味まで同じだと思い込むと、対応しない性質を無理に当てはめることになり間違いを生むため注意が必要です。アナロジーには便利さと同時に限界もあり、その境界は第6回で扱います。
「式の骨格」を見ることで理解を深める
アナロジーを学ぶ目的は、対応表を暗記することではありません。
一度理解した現象を、別の分野でも使える知識に変えることが大きな目的の一つです。
たとえば、バネマスダンパ系で、慣性と弾性があると振動が生まれ、粘性がその振動を抑えることを前回学びました。
回転系や電気回路にも同じ骨格が見つかれば、そこでも「エネルギーを蓄える要素どうしの間で振動が起こり、抵抗する要素がそれを抑えるのではないか」と予想できます。
もちろん、実際の値や単位はそれぞれの分野で計算し直す必要があります。それでも、何が起こりそうか、どの要素を変えれば動きが変わりそうかという見通しを、ゼロから考えずに済みます。
制御工学では、機械と電気とで対象が違っていても、このアナロジーの考えがあれば同じように扱うことが可能です。そこで重要になるのは、部品の名前よりも、式のどこに「変化しにくさ」「抵抗」「蓄積」が現れているかです。
この見方ができると、初めて扱うシステムでも、既知のモデルと共通する部分を探して考えられるようになります。
モータは、電気と回転が本当につながる
このシリーズで最終的に扱うモータは、アナロジーの便利さが特によく現れる対象です。
モータに電圧を加えると電流が流れ、その電流によってトルクが生まれ、軸が回転します。一方で、軸が回転すると、今度は電気回路側に逆起電力が生まれます。
つまりモータの中では、電気の世界と回転運動の世界が、単に似ているだけでなく、実際に互いへ影響を与えながら結びついています。さらに、両者を一つのシステムとして数式で表すこともできるのです。
電気回路と回転運動を別々の知識として覚えるだけでは、モータ全体の動きを捉えにくくなります。しかし、両者の式を共通の骨格で見られるようになると、電圧を加えてから回転数が変わるまでを、一つのシステムとして組み立てやすくなります。
この考え方は、第11回でDCモータをモデル化するときに大きな力を発揮します。
まとめ
今回は、異なる物理現象の中から共通する式の構造を見つけ、既知の考え方を別の分野へ移す「アナロジー」を紹介しました。
- アナロジーは、見た目が似ているものを探すだけの考え方ではない
- それぞれの要素が式の中で担う役割を対応づける
- 直線運動、回転運動、電気回路には、変化を妨げる要素、流れを妨げる要素、蓄積によって押し返す要素がある
- 式の骨格が同じなら、一つの分野で得た知識を別の分野でも活用できる
- ただし、物理的な意味まで同じになるわけではなく、アナロジーには適用範囲がある
前回までに作ったバネマスダンパ系は、これから別の世界を理解するための「基準形」になります。
次回は、直線運動を回転運動へ翻訳する過程を、より丁寧に説明します。力はトルクへ、質量は慣性モーメントへ、速度は角速度へ――本当に同じ形の式ができるのか、一つずつ確かめていきましょう。