ここまでの記事では、直線運動、回転運動、電気回路という、一見まったく違う3つの世界を見てきました。

直線運動では、質量・ダンパ・バネ。

回転運動では、慣性モーメント・回転ダンパ・ねじりバネ。

電気回路では、インダクタンス・抵抗・コンデンサ。

名前も見た目も違いますが、式を書いてみると、驚くほどよく似た形になりました。

たとえば、速度を基準にバネマスダンパ系を書くと、

mdvdt+cv+k∫vdt=Fm\frac{dv}{dt}+cv+k\int v\,dt=F


RLC回路は、

Ldidt+Ri+1C∫idt=VL\frac{di}{dt}+Ri+\frac{1}{C}\int i\,dt=V


となります。

変数の名前を入れ替えれば、ほとんど同じ構造です。

では、この考え方をそのまま広げていけば、熱も流体も音も、すべて電気回路に置き換えられるのでしょうか。

残念ながら、そこまで都合よくはありません。

今回は、これまで便利に使ってきた「アナロジー」が、どこまで通用し、どこから壊れ始めるのかを考えてみます。

そもそも、なぜアナロジーは成立したのか

ここまで扱ってきた3つの式を、もう一度眺めてみましょう。

直線運動では、

mdvdt+cv+k∫vdt=Fm\frac{dv}{dt}+cv+k\int v\,dt=F


回転運動では、

Jdωdt+Dω+K∫ωdt=TJ\frac{d\omega}{dt}+D\omega+K\int \omega\,dt=T


電気回路では、

Ldidt+Ri+1C∫idt=VL\frac{di}{dt}+Ri+\frac{1}{C}\int i\,dt=V


となります。どれにも、

  • 変化しようとすると抵抗する要素
  • 動きに比例してエネルギーを失う要素
  • 変化した量を蓄えて元に戻そうとする要素

があります。

そして重要なのは、それぞれの要素が非常に素直な比例関係で表せることです。

たとえばダンパでは、

F=cvF=cv

という関係がありました。

速度が v のときに発生する力が F だとすると、速度を2倍の 2v にしたとき、

F′=c(2v)=2cv=2FF’=c(2v)=2cv=2F


となり、発生する力もきれいに2倍になります。

抵抗も同じです。

V=RiV=Ri

なので、電流を i から 2i に増やせば、

V′=R(2i)=2Ri=2VV’=R(2i)=2Ri=2V


となり、必要な電圧も2倍になります。

バネも、

F=kxF=kx


なので、変位を x から 2x にすれば、バネの力も F から 2F になります。

このように、入力を2倍にすると出力も2倍になるような比例関係質を、制御工学では線形と呼びます。

さらに、質量 m、バネ定数 k、抵抗 R といった値が時間とともに勝手に変化しないと考えれば、これまで扱ってきた系は線形時不変系、LTI(Linear Time-Invariant)として扱えます。

ここまでアナロジーがきれいに成立した理由は、「機械と電気が本質的に同じものだから」ではありません。

現象をある範囲だけ切り出した結果、同じ線形時不変の形で表せたからです。

現実には、バネも抵抗もそんなに素直ではない

実は、アナロジーの限界は流体や熱に行く前から存在しています。

たとえば理想的なバネなら、

F=kxF=kx


ですが、実際のゴムを大きく伸ばしていけば、途中から急に硬くなることがあります。

摩擦も同じです。

これまでダンパとして、

F=cvF=cv


と表してきましたが、実際の機械には速度によらず一定の力で逆らうクーロン摩擦や、動き始めだけ特に大きな力が必要な静止摩擦があります。

電気回路でも、抵抗やコイルがいつでも理想通りとは限りません。

つまり、

直線運動や電気の世界では必ずアナロジーが成立するわけではない

ということです。

大切なのは、

いま扱っている範囲で、入力と出力の関係を比例関係として扱えるか

です。小さく動かしている間は直線に見えていたものが、大きく動かした途端に曲がり始める。

これが、アナロジーを壊す一つ目の壁である非線形性です。

流体では、この非線形性が顔を出しやすい

分かりやすい例として、油を小さな穴に通してみましょう。

油圧機器では、オリフィスと呼ばれる小さな穴に油を通し、流量を調整することがあります。

圧力差を大きくすれば、より多くの油が流れます。

ここまでは電気抵抗と似ています。

電気抵抗なら、

V=RiV=Ri


なので、電圧差を2倍にすれば電流も2倍です。

ところがオリフィスを流れる流量 Q は、単純化すると、

Q=CdA2ΔpρQ=C_dA\sqrt{\frac{2\Delta p}{\rho}}


のような関係になります。

流量は圧力差 Δp に比例するのではなく、圧力差の平方根に比例します。

つまり、

「圧力差を2倍にしたら、流量も2倍」

とはなりません。

電気抵抗のような一定値の R を置いて、

Δp=RQ\Delta p=RQ


とすれば終わり、とはいかないわけです。

これが流体系を扱うときの難しさの一つです。

さらに流速が大きくなれば、層流から乱流へ変化することもあります。

温度が変われば、油の粘度も変わります。

同じ部品なのに、条件によって振る舞いそのものが変わってしまうのです。

それでも、流体を電気回路のように扱える場合はある

ここで重要なのは、

「だから流体ではアナロジーが使えない」

と結論づけないことです。

たとえば、細い配管をゆっくり流れる粘性流では、圧力差と流量を近似的に

Δp=RhQ\Delta p=R_hQ


と表せる場合があります。

こうなれば、

V=RiV=Ri


とほとんど同じです。

また、油そのものや配管がわずかに伸び縮みすれば、圧力を蓄える性質が生まれます。

これはコンデンサに似ています。

さらに、配管内にある流体の塊を加速するには力が必要なので、流体の慣性をインダクタンスのように扱える場合もあります。

すると、

  • 圧力差 ↔ 電圧
  • 流量 ↔ 電流
  • 流体抵抗 ↔ 抵抗
  • 圧縮性 ↔ コンデンサ
  • 流体の慣性 ↔ インダクタンス

という対応が見えてきます。

結局、流体でも条件を限定すれば、電気回路のようなモデルを作ることができます。

しかし、流体現象自体、複雑な要素が直動運動や電気回路に比べて多いため、実際に使われることは少ないように思います。

非線形でも、小さな範囲なら直線に見える

もう一つ、制御設計で非常によく使う考え方があります。

それが線形化です。

先ほど、オリフィス流量は

Q=KΔpQ=K\sqrt{\Delta p}


のような非線形な関係になると説明しました。

グラフにすれば曲線です。

しかし、ある圧力付近だけを拡大して見てみるとどうでしょう。

十分に狭い範囲なら、曲線もほとんど直線に見えます。

地球は丸いですが、家の床を作るときに地球の曲率まで考える人はいません。

扱う範囲が小さければ、平面として十分だからです。

制御でも同じことをします。

普段使う動作点の近くに範囲を限定し、

「このあたりなら、ほぼ比例関係として扱ってよい」

と考えるのです。

すると、本来は非線形なシステムでも、その周辺だけならLTIシステムとして扱えるようになります。

もう一つの壁は「場所によって状態が違う」こと

アナロジーを難しくするもう一つの問題があります。

それが、空間的な広がりです。

これまで扱ってきたバネマスダンパ系では、物体を一つの質点として考えてきました。

電気回路でも、抵抗器の右半分と左半分を別々に考えることはほとんどありません。

部品全体を、

「抵抗 R がここにある」

と一つの値にまとめています。

このようなモデルを集中定数モデルと呼びます。

ところが、たとえば長い金属棒を片側から加熱した場合を考えてみます。

ヒーターに近い場所は熱い。

反対側はまだ冷たい。

中央はその中間です。

「この棒の温度はいくつですか?」

と聞かれても、一つの温度だけでは状態を表せません。

温度は、

T(x,t)T(x,t)


のように、時間 t だけでなく場所 x によっても変化します。

このように、空間ごとに状態を持つシステムを分布定数システムと呼びます。

長い配管を伝わる圧力波や、空間を伝わる音も同じです。

場所による違いを無視できなくなった瞬間、一つの抵抗、一つのバネ、一つのコンデンサだけで表すことは難しくなります。

熱は電気回路としてかなり扱える

では、熱にはアナロジーが使えないのでしょうか。

実は熱は、条件を限定すれば電気回路とかなりきれいに対応します。

たとえば、温度の違う二つの物体の間を熱が流れているとします。

熱流量を Q̇、温度差を ΔT とすると、

Q˙=ΔTRth\dot Q=\frac{\Delta T}{R_{\mathrm{th}}}


と表せます。これは、

i=VRi=\frac{V}{R}


というオームの法則とそっくりです。

さらに、物体には熱を蓄える能力があります。

熱容量を Cth とすると、

CthdTdt=Q˙in−Q˙outC_{\mathrm{th}}\frac{dT}{dt}=\dot Q_{\mathrm{in}}-\dot Q_{\mathrm{out}}


と表せます。

電気回路でいうコンデンサに相当します。

そのため、

  • 温度 ↔ 電圧
  • 熱流量 ↔ 電流
  • 熱抵抗 ↔ 電気抵抗
  • 熱容量 ↔ コンデンサ

という対応を作ることができます。

一つの物体だけなら、これはRC回路と同じ1次遅れ系になります。

物体を複数に分割すれば、熱容量と熱抵抗を何段もつないだ、より高次のモデルにもできます。

ただし通常の熱伝導では、質量やインダクタンスのような「勢いを持って進み続ける慣性要素」は現れません。

そのため、バネマスダンパ系やRLC回路のように、エネルギーを行ったり来たりさせながら振動する現象は基本的には起こりません。

音は「集中定数にできるか」の境界が分かりやすい

音も、本来は空間を伝わる波なので分布定数システムです。

ところが、構造が十分に小さければ、一部を集中定数として扱えることがあります。

代表例が、瓶の口を吹いたときに鳴る音です。

瓶の首にある空気の塊には質量があり、瓶の中の空気は圧縮されると元に戻ろうとします。

つまり、

  • 瓶の首の空気 → 質量
  • 瓶内部の空気の圧縮性 → バネ
  • 摩擦や音として逃げるエネルギー → ダンパ

と考えることができます。

これは、ほとんどバネマスダンパ系です。

実際には空気という連続した流体が動いているにもかかわらず、条件を絞ることで「一つの質量と一つのバネ」として扱えるわけです。

ここでもやっていることは同じです。

現象全体を置き換えているのではなく、必要な部分だけを簡単なモデルに切り出しています。

アナロジーを使うときに確認したい3つのこと

ここまでの話を整理すると、アナロジーが使えるかどうかを見るときには、次の3つを確認すればよさそうです。

1. 比例関係として扱えるか

入力を2倍にしたとき、出力もおおよそ2倍になるでしょうか。

ならなければ非線形です。

ただし、動作範囲を狭くすれば線形として近似できるかもしれません。

2. パラメータを一定として扱えるか

抵抗、粘性、バネ定数などが、温度や動作状態によって大きく変わらないでしょうか。

変化が小さければ一定値として扱えます。

大きく変わるなら、一つのモデルだけですべてを表すのは難しくなります。

3. 空間を一つの点にまとめてよいか

部品の場所ごとの違いを無視できるでしょうか。

無視できるなら集中定数モデルとして扱えます。

無視できなければ、より細かく分割したり、空間そのものを含んだモデルが必要になります。

この3つを意識するだけでも、「このアナロジーをどこまで信用してよいのか」がかなり見えやすくなります。

モデルは現実そのものではない

第1回からここまで、私たちは現実の物理現象を少しずつ数式に置き換えてきました。

しかし、数式は現実そのものではありません。

質点も、理想バネも、理想抵抗も、本当は存在しません。

現実から必要な特徴だけを取り出して、人間が扱いやすい形にしたものがモデルです。

だから、

「この式は正しいか?」

だけではなく、

「どの範囲なら、この式を正しいものとして使ってよいか?」

を考える必要があります。

アナロジーも同じです。

直線運動、回転運動、電気回路を同じ構造として見ることで、一度理解した知識を別の分野へ持っていくことができます。

流体や熱でも、条件を限定すれば同じ考え方は使えます。

しかし、非線形性が強くなったり、空間的な広がりを無視できなくなったりすれば、その対応は少しずつ崩れていきます。

大切なのは、アナロジーを使わないことではありません。

どこまでなら使えるのかを理解した上で、思い切って単純化することです。

それが、複雑な現実を扱うための「モデル化」という考え方です。

ここまでで、力から始まった物理の話はいったん一区切りです。

次の制御工学のパートでは、ここまで作ってきたモデルを今度は「どう動かすか」という立場から見ていきます。

物理現象を理解するだけでは、モータを思い通りには動かせません。

目標を決め、その目標に近づくように入力を決める。

ここから、いよいよ「制御」の話に入っていきます。

ABOUT ME
しょか
組み込みシステムの制御設計者として働いています。 技術に関することや思いつきを書いていこうと思っています。