直線運動と回転運動の対応関係
私たちがよく知る運動方程式、
F=ma
これは、質量 m の物体が加速度 a で動くときに受ける力 F を表す、物理の基本法則です。
実はこの構造は、回転運動にもそのまま対応しています。
回転系では、
T=Jα
という式が成り立ちます。ここで:
- T:トルク(回転を起こす力) [Nm]
- J:慣性モーメント(回転のしにくさ) [kg·m^2]
- α:角加速度 [rad/s^2]
つまり、質量 → 慣性モーメント、加速度 → 角加速度、力 → トルクと読み替えるだけで、回転運動にそのまま適用できるのです。
補足:慣性モーメントとは?
質量 は物体が直線運動するときの「動きにくさ」を表しますが、慣性モーメント は「回転しにくさ」を表します。
例えば、同じ重さの物体でも、その重さが中心から離れた位置にあると、回転しにくくなります。これはブランコの立ち漕ぎやハンマー投げの感覚に近いです。
- 中心に近い:回りやすい(小さい)
- 外側に重い:回りにくい(大きい)
物体の形状や質量分布によっては異なります。
🔗 形状ごとの慣性モーメント一覧はこちらが参考になります:
慣性モーメントのまとめ(三木プーリHP)
バネマスダンパ系と回転版の比較
直線運動でよく使われるモデルに、バネ・質量・ダンパからなる系(バネマスダンパ系)があります。
これを回転運動に対応させると、以下のような運動方程式が得られます:
T=Jθ′′+cθ′+kθ
ここで:
- θ:角度 [rad]
- c:ねじりダンパ係数 [Nms/rad]
- k:ねじりバネ定数 [Nm/rad]
これは直線運動における:
F=mx′′+bx′+kx
と構造的に完全に同じであることがわかります。
ここで「ねじりバネ」や「ねじりダンパ」と難しく聞こえるかもしれませんが、簡単にいえば、位置や速度に比例して力を及ぼす“何か”と捉えてもらえればOKです。
例えば、バネや空気抵抗がその代表例ですが、 実際のモノによっては比例関係が成り立たない場合もあります。
それでも、このシンプルな式に落とし込むことで、複雑な現象も計算や設計がしやすくなるため、多くの場面で活用されています。
単位と意味から腑に落とす
力とトルク、変位と角変位は似て非なるものですが、エネルギー(仕事)という観点から見ると、対応が見えてきます。
- 力による仕事:W=F⋅x
- トルクによる仕事:W=T⋅θ
このように、直線運動で使う公式が、そのまま回転系に置き換え可能です。
まとめ
回転運動は、F=maの構造をそのまま保ったまま、置き換えて使えることがわかりました。これは、物理の他分野とのアナロジーを理解する第一歩でもあります。
以下に、今回扱った “回転運動” に関する対応表を再掲します。
分類 | 力学 | 回転運動 | ||
---|---|---|---|---|
位置 | 変位 | x [m] | 角度 | θ [rad] |
フロー | 速度 | v [m/s] | 角速度 | ω [rad/s] |
加速度 | 加速度 | a [m/s²] | 角加速度 | α [rad/s²] |
エフォート変数 | 力 | F [N] | トルク | τ [Nm] |
慣性 | 質量 | m [kg] | イナーシャ | J [kg·m²] |
弾性要素 | バネ定数 | k [N/m] | ねじりバネ定数 | kθ [Nm/rad] |
抵抗要素 | 粘性抵抗 | b [Ns/m] | ねじりダンパ | bθ [Nms/rad] |
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