はじめに
F=maに代表される力学は分かるけど、電気回路になると頭が痛い。
逆に、電気系出身で「力学の振動」がイメージしにくい。
そんな悩みを持っていませんか?
実は、「力学の運動」と「電気の流れ」は、数学的には全く同じ振る舞いをしています。
この共通点を利用して、異なる物理現象を同じ数式で扱う考え方を、制御工学や物理学では「アナロジー」と呼びます。
この概念を理解すると、「力学の知識だけで電気回路が解ける」ようになり、
逆に「電気の知識で機械の振動が分かる」できるようになります。
今回は、エンジニアとしての視野を一気に広げる「アナロジー」の基礎と、
なぜこれらが同じ式になるのかという理由を解説します。
アナロジーとは何か?
アナロジー(Analogy)とは、日本語で「類推」と訳されます。
既知のあることから別の事柄を当てはめて考えることですね。
例えば、以下の2つを想像してみてください。
- 車のサスペンション(機械): バネとダンパ(ショックアブソーバー)で振動を吸収する。
- ラジオの同調回路(電気): コイルとコンデンサで特定の周波数を選び出す。
これらは全く別の事柄ですが、後述の微分方程式を立ててみると、同じ構造をしています。
この性質を利用すれば、機械システムの挙動を電気回路に置き換えたり、またその逆をすることで理解の手助けになったりします。
【保存版】3つの世界を繋ぐ「対応表」
では、具体的に何が何に対応しているのでしょうか?
最も基本となる「直動システム(動くもの)」「回転システム(回るもの)」「電気回路(流れるもの)」の3つを比較してみましょう。

この表さえ頭に入っていれば、「コイル (L) の挙動がわからない」となった時に、「ああ、これは質量 (M) と同じだから、重たい物体みたいに急には止まれないんだな」とイメージできるようになります。便利ですよね。
なぜ「形」が同じになるのか?
なぜ、これほどまでに違う現象が同じ式になるのでしょうか?
その答えは「エネルギーの扱い方が同じだから」です。
物理システムを構成する要素は、エネルギーの観点から以下の3つに分類できます。
1. エネルギーを「運動」として蓄える要素(M, J, L)
・質量 M: 運動エネルギー
を蓄えます。
・コイル L: 磁気エネルギー
を蓄えます。
両者とも、現在の状態(速度や電流)を維持しようとする性質があります。重いものが急に止まれないように、コイルの電流も急には止まりません(レンツの法則)。
2. エネルギーを「熱」として捨てる要素(D, R)
・ダンパ D: 摩擦によって運動エネルギーを熱に変えて消費します。
・抵抗 R: ジュール熱によって電気エネルギーを熱に変えて消費します。
どちらも、動きを邪魔してシステムを安定(減衰)させる役割を持ちます。
3. エネルギーを「位置」として蓄える要素(K, 1/C)
・バネ K: 弾性エネルギー
を蓄えます。
・コンデンサ C: 静電エネルギー
を蓄えます。
どちらも、変位や電荷が溜まれば溜まるほど、元の場所(ゼロ)に押し戻そうとする力を発生させます。
つまり、「慣性・抵抗・復元」という3つの役者が揃っているため、物理現象が違っても、数式は同じになるのです。
実際の数式で見比べてみる
「エネルギーの役割が同じなら、数式も同じになる」。 実際に、機械システムの基本である「バネ・マス・ダンパ系」と、電気回路の基本である「LCR直列回路」の微分方程式を並べてみましょう。
機械システム(並進運動)の運動方程式
質量 M、ダンパ D、バネ K に、外力 f(t) が加わった時の変位 x(t) の式です。
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電気システム(LCR回路)の回路方程式
インダクタンス L、抵抗 R、コンデンサ C に、電圧 v(t) が加わった時の電荷 q(t) の式です。
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いかがでしょうか? 記号が違うだけで、式の構造(形)は完全に一致しています。 つまり、この微分方程式の解き方さえ一つマスターしてしまえば、機械の振動も、電気の過渡現象も、全く同じ手順で解くことができるのです。これがアナロジーの強力なメリットです。
※電気系では「電流 i」を使うことが多いですが、アナロジーとして位置 x と完全に対応させるためには、電流の積分である「電荷 q」を基本変数に置くと数式が綺麗に対応します。
まとめ:アナロジーを理解して「モデル化」を制する
今回は、機械と電気を繋ぐ「アナロジー」の基本概念について解説しました。
- 機械と電気は、数学的には「双子」のような関係。
- 共通点は「エネルギーをどう扱うか(蓄える・捨てる・戻す)」にある。
- 微分方程式の形は完全に一致する。
この考え方が身につくと、例えば「DCモータ」のような 電気と機械が混ざり合ったシステム を扱う際に、「電気回路の式」と「回転運動の式」をシームレスに結合してモデル化できるようになります。