第1回:F=maは証明できない?ニュートンが「加速度」で定義した力の正体
本ブログの第1回目は、皆さんおなじみニュートンの第一法則「F=ma。力は質量かける加速度」について解説し、この式の意味を深堀りしていきたいと思います。
まず最初に、この式、誰がどうやって証明したのか、気になったことはありませんか?
三平方の定理には証明があります。二次方程式の解の公式にも導出があります。なのにF=maは、いきなり「そういうものだ」と置かれます。
結論ですが、F=maは証明できる定理ではなく、力とは何かを決めた「定義」です。この一文の意味を、歴史を振り返りながら、そして日常の感覚と結びつけながら、腹落ちさせていきます。
ニュートンが定義するまでの歴史
まずは、歴史を振り返りながらF=maの本質を理解していきます。
人類は初め「力は速度に比例する」と考えた
私たちの日常感覚から考えてみます。机の上の消しゴムを指で押すと、押している間だけ動いて、離すと止まります。
この観察を素直にまとめると、こうなります。力を加えている間だけ物は動く。力をやめれば止まる。つまり「力は速度に比例する」。
古代ギリシャのアリストテレスも、実際にそう考えていたとされています。そして約2000年もの間、これが当たり前だと思われていたようです。日常の観察としては、これで合っていますね。
では、何が問題だったのか。床の摩擦と空気抵抗が、無色透明で見えないことです。生まれたときからずっとそこにあるので、「何もない状態」だと錯覚してしまう。要するに、ブレーキが常時かかった世界で実験していたことに、誰も気づかなかったということです。
ガリレオが問いをひっくり返した
ここで登場するのがガリレオです。彼がやったのは「摩擦を減らしていったらどうなるか」を追いかけることでした。
ざらざらの板の上で球を転がすと、すぐ止まる。つるつるに磨くと、だいぶ先まで転がる。もっと磨くと、もっと先まで転がる。
そこでガリレオは、実験のその先を頭の中で延長しました。もし摩擦がゼロなら、球は永遠に転がり続けるはずだ。これが慣性の法則です。
大事なのは結論そのものより、問いの立て方が「なぜ物は動き続けるのか」から「なぜ物は止まるのか」へ反転したことです。動き続けることは理由の要らない自然な状態で、変化するときだけ理由が要る。この転換が、次の一手を可能にしました。
ニュートンは「力を加速度で測る」と決めた
等速直線運動が「力ゼロの状態」だと確定したことで、ニュートンはこう整理できました。力がゼロなら速度は変わらない。力があるときは速度が変わる。つまり力の効き目が出るのは、速度そのものではなく速度の変わり方だということです。
さらに、同じ力で押しても重い物ほど加速しにくい。この「加速しにくさ」を質量mとして組み込むと考えたのが、ニュートンの功績です。
余談ですが、F = ma という形そのものは、実はニュートン自身が書き残したものではありません。ニュートンの著書『プリンキピア』(1687年)に記されているのは「運動の変化は、及ぼされた力に比例する」という言葉による説明で、ここでいう「運動」は今でいう運動量(質量×速度)のことでした。これを質量一定の場合の式として整理し、F = ma という形にまとめたのは、およそ100年近く後の数学者オイラーだとされています。
そもそも加速度って何?
加速度とは、端的に言えば、速度の変化量です。
高校物理では、F=maの次に以下の式を習います。
ここで、それぞれの記号の意味は次の通りです。
- F:力
- m:押されるものの質量
- a:加速度
- v:速度
- v₀:測り始める瞬間の速度
この式をaについて整理すると、次のようになります。
つまり、加速度とはt秒後に速度がどれだけ増えたかを示すものでした。

実はこれ、高校物理の範囲内では正しいのですが、その先の物理では不十分です。というか、適用範囲に限界があります。
先ほどの説明では加速度はtの間ずっと一定のように扱われていましたが、現実世界では、時々刻々と変化することがほとんどです。それを考えた時の加速度の正しい定義は、微小時間あたりの速度変化になります。
そこで、さっきのaの式で、時間tの幅(Δt)をすごーく小さくして考えてみます。
(※lim Δt→0は、Δtを無限小に刻むという意味)
結果的にこれは、高校数学の範囲で習う「微分」そのものです。改めて微分演算子d/dtを使って表すと、
このdの意味はdifference(差分)に由来し、限りなくゼロに近いごくわずかな変化を示します。元の式に再度戻すと、次のようになります。
このt₀とt₁の時間の間が、すごーーく小さい、ということです。
次に、速度vを考えると、aと同様に、vもdtを使ってv = dx/dtと表すことができます。ここでxは位置を示しており、書き直すと、次のようになります。
やはり、t₀とt₁の間がすごーーく小さいということです。
この関係を、改めて表で整理します。
| 量 | 記号 | 意味 |
|---|---|---|
| 位置 | x | いまどこにいるか |
| 速度 | v = dx/dt | 位置がどれくらいの勢いで変わっているか |
| 加速度 | a = dv/dt = d²x/dt² | 速度がどれくらいの勢いで変わっているか |
位置を1回微分すると速度、もう1回微分すると加速度。ここで加速度は、xを2回微分しているという形(d²x/dt²)でも表現できます。2回繰り返すから、記号の肩に2が乗るわけですね。
なおこの記号、初めて見るととっつきにくいですが、この先の学習には絶対に必要になります。どうかここだけは「そういう記号なんだ」と思って、ついてきてもらえればと思います。
F=maの関係を、実際の感覚で考える
ここまでで力と加速度の関係とその正体を整理してきました。では今度はこれを日常感覚と紐づけるために、新幹線に乗っている時を考えてみましょう。
時速300kmで「一定」の速度でまっすぐな道を走る新幹線の中では、何も感じません。上下方向の振動はあるかもしれませんが、進む方向に力は感じず、飲み物もこぼれません。一方、駅が近づいて減速するときには、前につんのめる感覚があり、逆に、駅から出発して加速するときには後ろに押し付けられる感覚があると思います。

このことと先ほどの理論を結び付けて考えると、体が力として感じているのは、速度ではなく加速度、つまりその瞬間瞬間の速度の変化の仕方であることがわかると思います。
そのため、急ブレーキや急発進では強い力を感じ、逆に緩やかに加減速すれば、あまり力を感じません。
ここまでで、力と加速度の関係が理解できてきたのではないでしょうか?改めて考えると、感覚的に我々の体で感じられる「力」が、目で測ることのできる「加速度」に、こんなシンプルな式で結び付けられるのって、やっぱり定義じゃなくて、自然の摂理であらかじめ決まっていたように思えてきませんか?ですが、やはりこれは人が決めた定義なのです。
実際、F=maには適用限界があります。光速に近い領域では相対論の効果によって成り立たなくなり、原子や電子のスケールでは、位置と速度を同時に確定するという前提そのものが崩れます。もしF=maが数学の定理のように論理だけから導かれるものなら、条件によって成り立たなくなることなどあり得ません。破れるという事実そのものが、これが自然を相手にした経験則であり、ある一定の条件下で力を定義したものであることを裏付けています。
ここまで感覚と式が素直に結び付く理由として、次のことが挙げられると思います。
重力は、地球の表面上でg = 9.81 m/s²という決まった加速度で、常に下向きに働いています。立っているだけで感じる「重さ」が、この重力そのもの。支えがなければ、体はこのgという加速度で落ち始めてしまう。その力を、床がずっと支え続けてくれているだけです。
私たちは生まれてから今まで、ずっとこの一定の下方向にかかる力を体感しながら育ってきました。そしてその重力に対してF=maを使い、g = 9.81 m/s²という値を導き出しました。このF=maから重力加速度を導いたという事実から、重さという体の感覚自体が力であり、その力は加速度にきれいに結びつくということになると思います。
この話は、ループしているようでこんがらがりやすいので、自分の頭の中で何度も反芻して考えてもらえればと思います。
力と加速度をシミュレーションで理解する
ここまで、力と加速度の関係を文章と数式で追いかけてきました。最後に、これを実際に手を動かして体感できるツールを、用意しました。台車に加える力Fと質量mを自由に変えると、速度の変わり方(=加速度)がその場でどう変化するかを、目で見て確かめられるシミュレーションです。
力や質量を変えながら、目で見て力と加速度の関係を確認してみてください。
まとめ
- F=maは証明できる「定理」ではなく、力とは何かを決めた「定義」である
- かつては「力は速度に比例する」と考えられていたが、摩擦・空気抵抗という見えないブレーキに誰も気づいていなかっただけだった
- ガリレオが「なぜ止まるのか」へと問いを反転させ、慣性の法則を導いた
- ニュートンは「力の効き目は速度の変化量(=加速度)に出る」と定義し、F=maが生まれた
- 加速度の正しい定義は微小時間あたりの速度変化であり、a = dv/dt = d²x/dt² と表せる
- 私たちの体が感じているのは速度ではなく加速度であり、それがF=maの実感につながっている
- F=maには相対論・量子力学という適用限界があり、それこそが「定義」であることの証拠になっている
- 一方で、重力g = 9.81 m/s²という日常のスケールでは、F=maは驚くほど正確に機能している
この「力を定義する」という一つの式が、やがて回転運動、電気回路、そしてモータの中身までも同じ言葉で語れるようになる――その入口に、今日から足を踏み入れました。次回は、このF=maを拡張し、バネとダンパという要素を加えていきます。